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ダイナミクス系のエフェクトとは? | ダイナミクス系のエフェクターについて #1

ダイナミクス系?

ミックスには最低限、「フェーダー」、 「EQ」、「コンプレッサー」が必要だと言われます。このうち、「コンプレッサー」は「ダイナミクス系」のプラグインとされています。このよく出てくる「ダイナミクス系」ですが、そもそも何ぞや?と思っている人も少なくはないはずです。今回は初めての試みとして、主にダイナミクス系のエフェクターについてのトピックを扱い、複数の記事にわたって解説するといったようなことをしてみようと思っています。

ダイナミクス系のエフェクトとは?

さて、「ダイナミクス系のプラグイン」とありますが、いったいどういったエフェクトがこういった分類のされ方をされるのでしょうか。厳密な定義はありませんが、筆者なりの解釈では入力信号の音量を何らかの基準に基づいて短い間隔で操作してくれるエフェクターが「ダイナミクス系のエフェクト」だと考えています。例を挙げれば、コンプレッサーゲートレベラーリミッターなどがダイナミクス系のエフェクトとして挙げられます。

上に挙げた中で、今回はコンプレッサーとリミッターについて取り扱うことにしました。この2つはどういった点で同じダイナミクス系のエフェクターに分類されているのでしょうか。それぞれどんな特徴を持っているのか、どういった差異があるのかについて、すこし調べてみましょう。

コンプレッサー

コンプレッサーは、入力された音声信号のレベルを常に監視して、しきい値を基準にそれを上回った信号を一定の比率で小さくしてくれるエフェクターです。“compress” という単語には、エアーコンプレッサーといったものに見られるように、「圧縮する」という意味があります。しきい値を超えた信号を定めた分だけ圧縮しているので、このような名前がついています。

処理系の話をしてみましょう。実際の仕組みはもっと複雑ですが、コンプレッサーの中身では以下のような画像のように、音量を上げ下げする処理が行われています。波形の画像を見てください。黒色の部分とクリーム色の部分の境界が圧縮が始まるレベルで、これをしきい値 = “threshold” 、日本語では「スレショルド」といいます。これより広がった部分の信号は、本来よりレベルを下げられて出力されるようになります。

ダイナミクスの処理とは?(コンプレッサーの場合)

その下には、ミキサーのフェーダーが2つありますね。実際、フェーダーはコンプレッサーの動作には全く関係ないのですが、イメージとして用意しています。コンプレッサーが音量を操作している最中は、まさにフェーダーを上げ下げするように音量を変更しているのです。

コンプレッサーをかけると音圧が上がる?

コンプレッサーをかけると音圧が上がるというのは皆さんも聞いたことがあると思います。これは、コンプレッサーが波形の最大から最小までの振れ幅をせばめて、音の強弱*1が小さくなった状態のゲインを大きくしているためです。上の図を見ながら考えてみてください。

まず音を圧縮すると、それまでクリーム色の部分にあった波形が潰されて、クリーム色の部分がより増えます。この状態では、音量はむしろ小さくなったように聞こえてしまいますが、これでは困ります。だから、全体の音量を上げているのです。この圧縮後の音量を上げるパラメーターを、“make-up” 、日本語では「メイクアップゲイン」ということがあります。

ダイナミックレンジ

曲全体の波形を俯瞰してみて、波形の振れ幅がどれくらいあるのかを示す指標を「ダイナミックレンジ」とよびます。またはもっと単純化して、曲の中でどれくらい音の強弱があるのか指すこともあります。 英語では、“Dynamic Range” 、すなわち「動きの範囲」ですから、具体化してみるとそこそこいろいろな解釈ができるのです。

クラシック音楽などでは、曲の中におけるダイナミックレンジをフォルテだとかピアノだとか、純粋な音の大きさで確保しています。クラシックは、ダイナミックレンジが確保されていることがとても重要なのです。興味本位でコンプを使って潰してはいけません!

リミッター

リミッターは、基準となるしきい値を上回る信号を通さないように努力する、という働きをするエフェクターです。“Limit という英単語は「制限する」という意味で、その名の通り一定以上のレベルの信号を制限する、という機能からその名前がついています。主に、マスタートラックの最終段に置かれますが、バストラックの最終段に置かれることもあります。コンプレッサーと同じように音量を操作して、基準値によって超えた信号を圧縮する処理を行います。

※実は、リミッターは普通のLimiterと、しきい値を超えた信号を決して通さずに抑え込む、Brickwall Limiter 「ブリックウォールリミッター」という種類にもう少し詳しく分類することができます。ただし、本稿ではより一般的な後者のBrickwall Limiterをリミッターとして扱うので、分類については考えなくても大丈夫です。

リミッターの実際の動作

下の画像をみてください。これはMaximusというダイナミクス系のエフェクターのモニター画面のスクリーンショットです。右上の波形部分を見てほしいのですが、少し解説させてください。

以上の点を踏まえると、しきい値を越えた紫色の波形がしっかりと叩かれて、白色の波形が出力されていることがわかります。

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シーリングからみるコンプレッサーとの違い

リミッターでは、コンプレッサーにおけるスレショルドのような値を、「シーリング」とよびかえています。ちなみにスペルに起こすと、“Ceiling” で、「天井」という意味です。コンプレッサーとはどのように違うのでしょうか。

コンプレッサーでは、信号がスレショルドを超えても、それは圧縮された音としてある程度出力されます。つまり、スレショルド以上の音量が出ない、といったことはないです。一方、リミッターでは、最大の音量を基準値であるシーリングまでに留めておくという動作をします。とどめておく、ということは信号の大きさに「てっぺん」を設けているのです。

これをリミッターでは、せりあがってくる信号を完全に遮る基準値を「天井」にたとえて、「シーリング」と呼んでいるのです。

マキシマイザー v.s. リミッター

機能的にはほぼ同じと考えてよいでしょう。どちらかというと、マキシマイザーは音圧を上げる文脈に限られて使われる一方で、リミッターはそれ以外の文脈でも使われる印象があります。別にマスタートラック以外にも、バストラックに挿入して、私たちの耳を守るためにも申し分なく使えます。

マキシマイザーやリミッターをかけると音圧が上がるという事実も、皆さんは一回は耳にしたことがあると思います。これは、コンプレッサーの理屈と同じように、リミッターが波形の最大から最小までの振れ幅をせばめて、ダイナミックレンジが小さくなった状態の波形を限界まで大きくしているためです。

マスタートラックにリミッターをかける理由

ちなみに、よく0dBから-1dB付近でリミッターをかける理由は、普段流通しているPCMのフォーマットに起因していて、このフォーマットでは0dB以上の音量は記録できないからです。基本的には0dBを超えるとクリッピング(音割れ)が起こると思ってください。

趣味的な範囲のプログラミングをしている人の知識範囲で技術的なことを言うと、

という感じで0dB以上の音量は記録できないという背景があるのです…。

もちろん32bit float とかの浮動小数点で記録すれば、本当に少しの誤差は生まれますが、極端に音量が大きかろうと小さかろうとデータ範囲によってtruncateされる、ということがないので音割れという概念はなくなります。

つまり?

ダイナミクス系のエフェクターは次から次へと入ってくる一つ一つの波形の山の具合を見て、入力波形の音量を調整しているエフェクターといえます。コンプレッサーリミッターも、ある一定の水準を超えた信号を圧縮する、という点では同じですが、リミッター (Brickwall Limiter) では水準を決して超えないよう圧縮します。この調整の塩梅は、アタックや、リリース、レシオ (コンプレッサーの場合) といったパラメータによって決定されます。

このように、ダイナミクス系においては、このようにコンプレッサーの中で使われている基本的な動作が他のダイナミクス系のプラグインにおいても、形を変えて役に立っている、ということがしばしばあります。そのうえ、コンプレッサーそのものにも亜種のようなものが色々あるのです。

次回!グラフを理解する

ところで、皆さんの中には一部のダイナミクス系のエフェクターにおける表示で、以下の画像のようなグラフを目にしたことのある方がいらっしゃると思います。このグラフは何を表しているのでしょうか。

実は、このグラフは見るだけでダイナミクス系のエフェクトがどんな処理をしているのか、そしてどのような音を出力するかが一目でわかるグラフになっています。次回以降では、このとても便利なグラフの読み方や、活用方法について、さらには他のダイナミクス系のエフェクター、およびそのコンプレッサーの亜種についても解説していきたいと思っています。

どうぞよろしくお願いします。

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